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横浜地方裁判所 平成3年(ワ)2500号 判決 1992年6月25日

原告

金本秀夫こと金秀夫

ほか一名

被告

渡辺秀昭

主文

一  被告は、原告らに対し、各金八四四万六六七九円及び内金七六三万一六七九円に対する平成三年一月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の、その余を原告らの各負担とする。

四  この判決一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告らに対し、各金二一五六万九三九八円及び内金一九四一万四三九八円に対する平成三年一月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(付帯請求は、弁護士費用及び物損を除いた損害賠償額を対象とする。)。

第二事案の概要

本件は、交通事故により死亡したバイクの運転者の両親が相手方(四輪車)運転者に対し、自賠法三条(人損)、民法七〇九条(物損)に基づき損害賠償請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠により認定した場合は、証拠をかつこ書きで記載する。)

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成三年一月二五日午後九時一〇分ころ

(二) 場所 神奈川県相模原市渕野辺本町四丁目二五番先交差点内

(三) 加害車両 普通乗用自動車(相模五四て八六三七)

右運転者 被告

(四) 被害車両 自動二輪車(排気量二五〇CC)

右運転者 金本満成こと金満成(満成)

(五) 事故態様 信号機により交通整理が行われていないT字型交差点において、直進中の被害車両と、反対車線から対向右折してきた加害車両が衝突した。

(六) 結果 被害車両は、全損し(甲一〇)、満成は、頭蓋骨骨折、頭蓋底骨折、下顎骨折、左上腕骨骨折の傷害を負い、外傷性シヨツクにより、同日午後一〇時三六分ころ死亡した(甲三)。

2  責任原因

被告は、自賠法三条及び民法七〇九条により損害賠償責任を負う。

3  原告らの地位

原告らは、亡満成(一九七五年三月二二日生、事故時一五歳)の父及び母であり、相続人である(甲四)。

4  既払金(自賠責保険金) 二〇〇〇万一八四〇円

二  争点

1  原告らの被つた損害額

2  過失相殺の割合

被告は、亡満成は、無免許で、改造され、整備不良の盗難車を二人乗りしていたもので、ヘルメツトを着用しておらず、制限速度(毎時四〇キロメートル)を大幅に超える毎時六〇ないし八〇キロメートルの高速度で、無灯火のまま走行していたものであり、大幅な過失相殺がなされるべきであると主張する。

原告らは、被告が威嚇するように何回か加害車両の前部を突出させた上、被害車両に衝突させたと主張する。

第三判断

一  損害額

1  葬儀費 一〇〇万円

本件事故と相当因果関係のある損害額として、被害者の年齢等に照らし、右金額が相当であると認める(請求額一二〇万円)。

2  逸失利益 三九七七万五三三一円

亡満成は、本件事故にあわなければ、一八歳から六七歳に達するまでの四九年間に、一年当たり賃金センサス平成二年第一巻第一表、産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計・全年齢平均年間給与額五〇六万八六〇〇円に相当する給与を得ることができたと推認されるので、この額を基礎として、生活費として五〇パーセントを控除し、ライプニツツ方式により中間利息を控除して右四九年間(ライプニツツ係数一八・四一八〇-二・七二三二=一五・六九四八)の逸失利益の本件事故時の現価を算出すると、三九七七万五三三一円となる。

3  慰謝料 一八〇〇万円

本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、右金額が相当である(請求額二〇〇〇万円)。

4  人損合計額 五八七七万五三三一円

原告らは、右2の損害の賠償請求権を法定相続分(各二分の一)に従つて相続し、右1の損害を同様の割合で負担し、右3の損害の賠償請求権を同様の割合で取得したものと認められるから、原告らの損害額は、各二九三八万七六六五円となる。

5  物損 五万円

原告らは、被害車両の所有者に対し時価相当額三一万円の損害を賠償したと主張し、同額の請求をする。

証拠(甲一三~一六)によれば、被害車両は、平成元年三月、新車として車両価格四五万八〇〇〇円(諸費用等は除く。)で売買されたもので、同車種の本件事故時の中古車販売価格は三一万円程度であり、原告らは、平成三年一〇月、被害車両の所有者に対し、被害車両の損害賠償として三一万円を支払つたことが認められる。しかしながら、証拠(甲一〇)によれば、被害車両は、盗難車であり、これを亡満成が運転していたものであるところ、事故当時、ナンバープレートはなく、前照灯は前方に突き出している状態で取り付け直されており、エンジンキーはなく、エンジン部の周囲は配線がむき出しになつており、給油タンクはふたがなく、紙テープでふさいでいる状態であり、マフラーは消音器の手前で切断されていたことが認められる。そうすると、本件事故時の被害車両は、正常な状態のものでなかつたものであり、右状態に照らすと商品価値(取引価格)のあるものとは認めがたく、右賠償額が本件事故時の被害車両の時価額とは到底認められないもので、右賠償額は、被害車両を盗んで破損したことによる責任として所有者に対して支払われたものと認められる。そして、他に本件事故時の被害車両の価額を的確に算定しうる資料は全くなく、右のとおり商品価値(取引価格)のあるものとは認められないので、本件事故時の被害車両の価額は、新車価格の一割程度の五万円と認定する。

そうすると、原告らの物損の損害額は、各二万五〇〇〇円となる。

二  過失相殺

1  証拠(甲九の一~六、一〇~一二、被告本人、原告金秀夫本人)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件事故現場の状況は、別紙図面(甲一〇の実況見分調書の交通事故現場見取図)記載のとおりである。

そして、最高速度は、毎時四〇キロメートルに規制されており、交差点には水銀灯が設置され明るかつたが、渕野辺方面は、右図面記載のとおり蛍光灯が設置されているものの、<甲>地点の先は暗くなつていた。

(二) 被告は、古渕方面から本件交差点を町田方面に向けて右折しようとして、<1>地点(運転席、以下同じ)付近で右折の合図を出し、対向車のライトが見えたため、<2>地点付近で一旦停止して対向車の通過を待つた。そして、ライトが見えた乗用車と二輪車が通過したのち発進し、<3>地点で加害車両左側面の前輪部付近に被害車両前部が衝突(<×>地点)し、<4>地点に停止した。被告は、衝突するまで被害車両が進行してくるのに全く気付かなかつた。

被告は、一旦停止した際、前照灯を消灯して対向車の通過を待ち、再発進する際、渕野辺方面から来る対向車を注意深く見たが、何も見えなかつたので、前照灯(下向き)を点灯して右折を開始したと供述(被告本人調書一項、四項、一四項)するが、対向二輪車は、前照灯の上向きと下向きの切替えをしていた(同三項)ことに照らすと、同車運転者は、加害車両が先に右折する危険を感じたものと推測されるし、二台の対向車が通過したらすぐに右折しようとしていた運転者が前照灯を消灯するとは考えにくい。また、被告は、再発進後衝突するまで被害車両に全く気付いておらず、衝突時から一一・二メートルも進行して停止していることなどに照らすと、被告は、先行二輪車の通過を待つて直ちに発進し、発進後かなり加速したものと推測されるもので(徐行して右折したのであれば、衝突後直ちに一メートル以内で停止できるはずである。)、これらのことと弁論の全趣旨に照らし、被告の右供述(特に、渕野辺方面から来る対向車を注意深く見た旨の供述)は採用できない(被告は、他にも、右折を終わるころ衝突した、事故の衝撃で何もしないで<4>地点まで進んだ(同六項)などと、明らかに事実と反する供述をしている。)。

なお、別紙図面に加害車両の前照灯の照射距離の検査結果と思われるものが記載されているが、記載の根拠は不明である(道路運送車両の保安基準(昭和二六年運輸省令第六七号)によれば、前照灯は夜間前方一〇〇メートル(上向き)ないし四〇メートル(下向き)の障害物を確認可能のこととされているので、右記載のとおりであるとすれば、右保安基準をみたしておらず、整備不良といわざるをえないが、通常、最長照射距離が一九・七メートルということはあり得ない。)。

(三) 亡満成は、友人(寺門宏美)を後部座席に乗せて、渕野辺方面から古渕方面に向けて、友人(伊藤親博)が運転する先行車の二輪車に追従して直進進行中、停止中の加害車両が突然発進して右折を開始したため、急制動措置をとつたが、一五・三メートルのスリツプ痕を残したあと右側面を下にして転倒し、約八メートル滑走して、<×>地点で加害車両と衝突し、亡満成は<ア>地点に、同乗者は<イ>地点に、被害車両は<ウ>地点にそれぞれ転倒、停止した。

被害車両は、衝突時、前照灯を点灯しておらず、また、右衝突状況に照らすと、被害車両の急制動前の速度は、時速六〇ないし八〇キロメートルであつたと推測される。

2  右認定の事実によれば、被告は、右折のため一旦停止し、ライトの見えた対向車の通過後、後続対向車の有無についてはよく確認しないまま、直ちに発進し、発進後かなり加速して右折したものであり、右折するに当たつて対向車の有無を確認しなかつた過失があるものである。確かに、本件交差点の渕野辺方面は照明が十分でなく暗かつたもので、被害車両は前照灯を点灯していなかつたようであるが、それでも、被告から被害車両が見えなかつた(その有無を確認しようとしても確認できなかつた)とは到底考えられない。しかも、被害車両は先行車に追従して比較的高速運転をしていたもので、エンジン音、排気音等も大きかつたと推測されるから、この点からも、被告が注意していれば、後続対向車があることが分かつたはずである。

他方、亡満成は、ヘルメツトを着用せず、制限速度(毎時四〇キロメートル)を超過した毎時六〇ないし八〇キロメートルの高速度で、無灯火のまま走行していた過失がある。亡満成が無灯火であつた理由は分からないが、亡満成は、先行二輪車に追従して走行していたもので、加害車両が右折のため停止していたのであるから、加害車両が自車の通過を待つものと期待したものと推測され、この期待自体は、正当なものである。なお、被害車両は、盗難車であつたが、このことは、本件事故原因の過失割合にかかわり合いのないものであり、また、亡満成は、免許取得年齢に達していなかつたが、このことが右認定の過失以外に本件事故発生の原因となつたものとは認められない。

3  そして、双方の過失割合について検討するに、本件事故が直進車と対向右折車の事故で、基本的に右折車の側の注意義務が大きいものである(本件事故現場の状況を前提とする基本的な過失割合は、二輪直進車が一に対し、四輪右折車が九と考えられる。)ところ、被告は、後続対向車の有無を確認せずに右折を開始し、衝突するまで被害車両に全く気付かず、しかも、衝突後一〇メートル以上も走行して停止したもので、被告において注意深い運転をしていたものとは到底いえないものであり、亡満成の過失を考慮しても、被告と亡満成との過失割合が逆転するものとは考えられず、双方の過失割合は、被告が六、亡満成が四と認めるのが相当であるから、原告らの損害額から四割を減額することとする。

したがつて、原告らの損害額は、人損が各一七六三万二五九九円となり、物損が各一万五〇〇〇円となる。

三  損害の填補及び弁護士費用

右人損に係る損害額から既払金(原告ら各自について一〇〇〇万〇九二〇円)を控除すると、原告らの損害額は、各七六三万一六七九円となる。

そして、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、原告ら各自について八〇万円と認めるのが相当である(請求額合計四〇〇万円)。

(裁判官 杉山正己)

別紙 <省略>

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